2009/06/29 Mon. 23:01:04 edit
マイケル・ジャクソンのミュージックビデオをむさぼり見ている。ポップ史に燦然と輝く名曲ぞろいの中、今回やっぱり心に残った"We are the World"(1985)。
アメリカを代表するポップ歌手たちによる録音のメイキング映像を見ていて、さすが!とうなる。
コーラス部分は楽譜なんてなく、その場でアレンジャーの指示に従って覚えて歌っていく。そのコーラスは、先に録ったマイケルのメインボーカルとあわせるのだが、リズムは微妙に揺らいでいて、音譜通りではない。それでも、微妙な息遣いを察知して、ぴたっと合わせる歌手たち。
そしてその集中力。これだけの有名歌手たちを終結させるために、全米を代表する音楽賞の授賞式後というスケジュールを組んだものだから、スタジオ入りは夜中。深夜のレコーディングをものともせず渾身の歌唱を聞かせる歌手たちは、只者ではない。
しかし、それを上回ってマイケルはやはりすごい。テイクをいくつか重ねるのだが、どのテイクも出来に差がない…いともさらっと、毎回同じように、最高のパフォーマンスを繰り返しているのだ。
そして、この誰の心をも引き付けるメロディラインをたった一日で書き上げてしまったところ、常人のなせる業ではない。
良くも悪くも世界中の人に知られ、影響を与えた大スターだった。
小さな頃から常に膨大な数の人に見られ、批評される立場にあった彼の気持ちは、誰にも理解できなかったかもしれない。
そんな中で常に生きていた彼が、事故の治療で受けた整形手術の結果に満足したことがきっかけとなって、少しでも理想に近づきたい、自分がいいと思う自分の姿を見てほしい、と思いながら整形にハマっていったとしても、誰が非難できるだろう。
彼は白斑症を患っていたため、肌の色が白く抜け、それが全身へ広がっていったと言われている。"Black or White"のように、人種差別反対の強いメッセージを込めた曲を歌い、黒人としての自分に誇りを持ってきた人間には、どんなにか孤独な運命だったことだろう。
いやーしかし最高だな"Black or White"。
マイケルに特別な性的嗜好があったかどうか、これも本当のところはよく分からない。誰が完全に言い切ることができるだろう。けれど、長年取りざたされてきた少年たちへの性的虐待の多くは、結局被害者とされた彼らの親たちによって、金銭を目当てに仕組まれた訴訟だったと結論付けられている。世界一のスターは、世界一のゴシップ源でもあった。その周りには、一個の人間としてのマイケルに寄り添おうとする人々もいただろうが、自分勝手な作意をもって近づく人々の方が多かったかもしれない。常にそういう状況に身を置いている人間の孤独を、一体誰が理解できただろうか。
確かに、彼も様々な状況で非難を呼ぶ失敗をした。それでも、インタビューで穏やかに音楽の力を語り、堂々と自らの黒人としてのアイデンティティを語り、確かな口調で批判に反駁し、純真な子供が大好きで、ほとんど無礼とみえる聞き手に対しても常に友好的に接するマイケルを見ていると、基本的には、この人は繊細で、純粋な、やさしい心の人間だったんじゃないか、と、思わずにいられない。
最近は特に裁判続きで身も心も疲れ果てていたはずで、しょんぼりしぼんで、さっさと田舎にひっこんでもおかしくない状況の中で、世の中に発信することを止めなかったマイケルは、真のエンターテイナーであったと思う。
この人はこんなにも音楽を通じて人に伝えようという気持ちが大きな人だったのだと、彼がいなくなってしまって改めて思う。
「この世は決して幸せなことばかりでないが、音楽を通して少しでも人びとがポジティブな気持ちになれるようにいつも願っているんだ。」という彼の言葉を、"We are the World"を見ながら反芻していた。
Rest in peace, the true of king, rock and soul!
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